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東京地方裁判所 昭和52年(モ)15238号 決定

申立人 更生会社株式会社興人 管財人 早川種三

被申立人 京都府信用農業協同組合連合会

主文

一  別紙目録1ないし25の各(一)記載の土地についてなされた各(二)記載の仮登記(別紙目録1ないし18の各(一)記載の土地については各(二)記載の条件付所有権を目的とする停止条件付根抵当権設定仮登記、同目録19ないし25の各(一)記載の土地については各(二)記載の仮登記所有権を目的とする根抵当権設定仮登記)を否認する。

二  被申立人は申立人に対し、右各仮登記の否認登記手続をせよ。

三  申立費用は被申立人の負担とする。

理由

一  申立

1  申立の趣旨

主文一、二項と同旨。

2  申立の趣旨に対する答弁

本件申立を棄却する。

二  主張

1  申立の理由

(一)  更生会社株式会社興人(以下「興人」という。)は、昭和五〇年八月二八日東京地方裁判所に対し会社更生手続開始の申立をし(同庁同年(ミ)第一六号)、同裁判所は同年一〇月一八日興人に対して会社更生手続開始決定をし、申立人がその管財人に選任された。

(二)  被申立人は、昭和五〇年六月三日、興人との間で別紙目録1ないし25の各(一)記載の土地について極度額を九億八四〇〇万円とする根抵当権設定契約(以下「本件契約」という。)を締結し、これについて同年一〇月一七日別紙目録1ないし25の各(二)記載の各仮登記(以下「本件仮登記」という。)を経由した。

(三)  被申立人は本件仮登記の際興人が会社更生手続開始の申立をしたことを知つていた。

(四)  よつて、申立人は、会社更生法八〇条により本件仮登記を否認し、被申立人に対し本件仮登記の否認登記手続をすることを求める。

2  申立の理由に対する認否及び被申立人の主張

(一)  申立の理由(一)及び(三)の事実は認める。

(二)  申立の理由(二)のうち、本件契約の締結日時は否認し、その余の事実は認める。

(三)  (被申立人の法律上の主張)

(1)  本件仮登記は、京都地方裁判所が昭和五〇年一〇月一七日に発した仮登記仮処分命令に基づき被申立人の単独申請により登記されたものであつて、興人の行為によらないものであるから、否認の対象とはならない。

(2)  また、被申立人は、申立外三菱信託銀行株式会社(以下「申立外会社」という。)との間に根抵当権の順位変更についての合意が成立したので、同年一二月一日根抵当権設定仮登記の順位変更登記を経由した。そして、申立外会社の根抵当権の根抵当権設定仮登記は同年八月一五日にされているのであつて、会社更生法八〇条による否認の対象にはならないところ、右の順位変更登記により本件仮登記は申立外会社の根抵当権設定仮登記と相互に交換されたと解されるのであるから、本件仮登記は否認の対象とはならない。

(3)  したがつて、右(1) 又は(2) いずれの理由によつても申立人の本件申立は失当である。

三  立証

1  申立人

疏甲第一ないし第二五号証、第二六号証の一、二、第二七、二八号証

2  被申立人

疏乙第一ないし第四号証

四  判断

1  申立の理由(一)の事実は、当裁判所に職務上顕著な事実であり、同(三)の事実は、当事者間に争いのないことからこれを認めることができる。

また、疏甲第一ないし第二五号証、第二六号証の一及び二、第二七、二八号証並びに疏乙第四号証によれば、被申立人は、昭和五〇年四月一〇日、興人との間で本件契約を締結し、これについて同年一〇月一七日京都地方裁判所の発した仮登記仮処分命令に基づいて同日本件仮登記を経由したものであることを認めることができる。

2  そこで、被申立人の法律上の主張(2(三))について検討する。

(一)  まず、被申立人は、本件仮登記は被申立人が裁判所の仮登記仮処分命令を得て、その単独申請によつてなしたもので、興人の行為によるものではないから否認の対象にならない旨主張する。

確かに、会社更生法八〇条所定の権利変動の対抗要件否認の制度は、原則として登記・登録など権利変動の対抗要件の具備に関する会社の行為を否認の対象とするものであることは否定しえない。しかしながら、右制度の趣旨が、会社がその所有の不動産に他人の権利を設定しながらその登記をせずにおいて、支払停止後又は更生手続開始申立後にその登記をするといつたような場合には新たに対抗要件を具備するに至つた者と一般債権者との間に不公平な結果が生ずるので、これを除去しようとすることにあり、この趣旨からみれば、更生手続開始の申立後になされた仮登記が会社との共同申請により、あるいは会社の承諾を得てなされたものである場合と、本件のように会社の協力が得られないとして仮登記仮処分命令を得てなされた場合とで否認の対象となるか否かの結論に差異を生ぜしめる合理的な理由がなく、仮登記仮処分命令に基づいてなされた本件仮登記のような場合については、例外的に右法条の適用があると解するのが相当である。したがつて、被申立人の右主張は採用し難い。もつとも、本件のような仮登記仮処分命令に基づく仮登記に対する否認については、執行行為の否認を規定した会社更生法八一条の類推適用も認めることができると考える。

(二)  次に、被申立人は、本件仮登記は申立外会社との根抵当権の順位変更の登記により、会社更生法八〇条による否認の対象とならない前順位抵当権者である申立外会社の根抵当権設定仮登記と交換されたから否認の対象とはならない旨主張するが、抵当権の順位変更の登記は、登記の前後によつて定められた同一不動産上の抵当権の順位を抵当権者相互間の合意及び利害関係人の承諾に基づいて変更し、これによつて後順位抵当権者は前順位抵当権者の優先弁済権を取得するにすぎず、後順位抵当権者が前順位抵当権者の債務者等との間における法律関係まで取得するものではないから、否認の対象とされる本件仮登記が、前順位の抵当権設定仮登記との順位変更登記によつてその地位が交換され、従来否認の対象であつたものが対象外とされる筋合のものではない。

したがつて、被申立人の右主張もその余の点について検討を加えるまでもなく失当であり採用できない。

3  以上によれば、会社更生法八〇条に基づき本件仮登記を否認し、本件仮登記の否認登記手続を求める申立人の本件請求はすべて理由があるから認容し、申立費用の負担について同法八条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 山口和男 川島貴志郎 志田洋)

(別紙)目録〈省略〉

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